瞼閉じてみても見える景色がある
耳を塞いでみても聴こえる和音がある
例えば海に浮かぶ暖色に輝く球体
ざわめく波と風が揺らす空気
いつかの記憶にこの網膜が
照らされて 照らされて
そのとき前も見えていない
いつかの記憶にこの鼓膜が
揺らされて 揺らされて
そのとき何も聴こえていない
そう、何もいらない
命は一度きりと言う割に日々はそんなにいいもんじゃない
でもたまの非日常を忘れない能力を持っている
今は現在を忘れよう
映像、音声、写真、文章、
何も残っていなくても
いつでも連れ戻してくれる
身体中にこびりついている
身体中に染み付いているから
いつかの記憶にこの網膜が
照らされて 照らされて
そのとき前も見えていない
いつかの記憶にこの鼓膜が
揺らされて 揺らされて
そのとき何も聴こえていない
そう、何もいらない